サテわたくしはただいま日本国の失業率をわずかばかり上げている身である。それなりに長いこと働いてきたので1年や2年無収入になったところで干上がりはしないが、かといってこの先一生働かずに食っていけるような金持ちなわけでもないため、ぼちぼち職を求めようとしたのだった。本当にぼちぼち。ハローワークに2回行って、それぞれ1件ずつ紹介状をもらっただけ。
で、1件は書類選考で落ちたのだが（イエ落ちてよかったです、募集要項のしょうもない見落としでありえないほどミスマッチな業務内容の会社に紹介状をもらってしまったので。お時間とらせて申し訳ありません面接とかとんでもないですどうぞ書類選考で落としてくださいと祈りながらポストに応募書類を投函したさ）、もう1件、最初に応募した会社へ面接に行ったところ、スキルは問題なさそうなのであとはあなたが業務内容に納得して働けるかよく考えてください、ということで、こちらからの返事を待っていただいている状態になったのだった。
このご時世に、この歳で、資格のひとつもない（普通自動車免許すら持っていないよ!）身にも関わらず、面接1件目でさくさく再就職先にありついたのに迷うなど、おそらく世間様からは大顰蹙をかうところであろうが、迷うものは迷うのである。提示された業務をこなせるかといえば、間違いなくこなせる。向いているか否かでいえば、多分向いていないことはない。その仕事が正しいかといえば、必要とする人は存在していてサービスを提供するのは天に恥じないと思う。が、しかし、わたしがそこに価値を見出せるかどうかは別問題だ。まったくもって、あとはやりたいかやりたくないかだけなんだよな……。
帰りの乗り換えでふらっと寺に寄って、ついうっかりおみくじなんか引いているあたりしおみさん弱りすぎ。「貴方の運勢は風無く波無く静かなる大海を悠然と航行するが如き象なり。事業に努力し幸運を得られよ。」長風破浪会有時 直挂雲帆済滄海、さぁてねぇ。
と、いうわけで、先日の会社に断りの連絡を入れた。業務内容以外の条件がこれ以上を望むのは難しいほど良くて未練たらたらだが、仕方ない。出版社から出すものの実質は自費出版で、相手は繊細な素人さんだから原稿そっくりそのまま、誤字脱字・問題のある表現以外は手を入れるなという編集作業が業務だったので。
企画にかめなくても少し手をかければもっと良くなるのに素通しするしかなくても、プロの手を通って本のかたちになったものを抱いたお客さんが、夢がかないました記念になりましたと笑ってくれるところを想像したら、（編集とは呼べないが）存外悪い仕事ではないし楽しいかもしれないと思った。例えば、何十年も家族のために働いてきたお父さんが、退職金からなにがしかを自分のために取り分けて書き溜めた俳句を本にしたいというなら、読者のほうを向いてより良い本をなんて野暮な口出しはせず当人の思い入れ純度100%の本にして喜んでもらいたいし、それの何が悪いかと胸をはって言えるだろう。なので「こなせる、向いていないこともない、天に恥じない」。ただし、そりゃ罪のない自分史だの短歌だの写真だの絵だのにかぎった話だ。
「水からの伝言」みたいな原稿だったらどうする? 電磁波過敏症“患者”や、今なら“放射能”から子供を守ラネバ! と眦決した母親の原稿を読み通す寛容がわたしにあるか? 代替医療のセンセイ方が出す（仕組みを知らない患者さん相手の箔づけになるからね）「hoge療法でがんは治せる」みたいな本を、どんな人がどんな思いで手に取るか知っていながら作れるか? 企画にかめない選べない以上、反社会的な内容とまではいえないので拒否はできまい。……とまあ、そんなことを考えたら、やはりわたしには無理だと思えたので。ああこれを逃したら後がないかもしれないのに馬鹿だなぁでも仕方ないよなぁ畜生。
季節が関係するのか知らないが、最近アキの食欲がことのほか旺盛である。餌の時間にはまだ間があるのに、3日間なにも口にしていない猫のごとき大声で要求してくる。時間が前倒しになり続けて、しまいには1日あたりの給餌回数が増えそうな勢いである。ミカは自主的には要求してこないものの、アキが騒ぎ始めると便乗して鳴くし、そもそもアキだけに餌を与えるのは不可能だ。これまでの減量がだいなし。どうしてくれようあの猫どもめ。